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線状降水帯【せんじょうこうすいたい】

★九州北部に豪雨災害をもたらした気象現象


 平成29年(2017年)は、大規模な水害に相次いで見舞われた年であったが、その中でも福岡の朝倉、大分の日田を中心に襲った豪雨は、記録破りの大雨となった。山間の小さな集落などは、ほとんど集落丸ごと流されたようなところもあり、死者・行方不明者は、41人に上った。


 この豪雨は、梅雨前線と台風3号によってもたらされたものだが、最初に大雨特別警報が発令されたのは、島根であった。島根では、先だって線状降水帯が発生し、すでに大雨被害を発生させ、当初は南東(広島方面)への拡大が警戒されていた。ところが台風3号の影響もあってか、南西方向に移動するかたちになり、しかも同時に二本の線状降水帯を朝倉と日田に発生させ、いくつもの降水量記録を塗り替える未曾有の豪雨をもたらすこととなった。


 近年、幾度も豪雨災害をもたらしている気象現象が、この線状降水帯である。これは、局地的な大雨の原因となる積乱雲が、いくつも並んで発生し続ける現象で、何らかの要因により暖かい湿った空気が流れ込み続けることで生じるものである。積乱雲とは、いわゆる入道雲のことで、夏の青い空をバックに白くもこもこと立ち上る姿を思い浮かべる人も多いだろう。このように、遠景では牧歌的な風情だが、下から見ると、実は夕立の黒雲がその正体である。


 夕立は、一時、土砂降りでも、10分程度でやんだりもするが、線状降水帯が発生していると、あの夕立の土砂降りが延々と続くだけでなく、それが帯状に連なることになる。それがどのような結果を招くかは、今回の水害や、常総市(2015年)、広島市(2014年)の例を思い出せばわかるだろう。


 地形的には、整流効果が働く平野や盆地の山際で発生しやすいが、こういった場所に限るわけではない。最大の要因は、暖かく湿った風の連続的な供給であり、これが上昇気流となって上空の寒気で冷やされる構造ができあがれば、どこでも発生しうるものである。そして、その根本原因と考えられているのが、海面温度の上昇である。


 海面温度の上昇は、特定の地域でも、さらに広い地域(台風の発生地域から消滅地域までなど)で考えても、暖かく湿った空気の増加につながる。これが寒気に触れると、水蒸気が雨になって落ちるため、体積が減って気圧が下がる。気圧が下がれば、さらに暖かく湿った空気が流れ込み…というのが、広範囲から一点に集まってくるのが台風、レジ待ちの列のように並ぶのが線状降水帯である。


 夕立は、その地域で蒸発した水分を雨にして戻すだけなので、その雨量もたかが知れているが、線状降水帯になると、海の上からせっせと水分を持ってくるので、際限がなくなってしまう。その元となった温度差、湿度、風の向きなどの条件が欠けていくことで、ようやく収束に向かうのであるが、海面温度が高いと、温度差、湿度の条件が維持しやすいわけである。


 海面温度の上昇は、線状降水帯の頻発だけでなく、台風の大型化、爆弾低気圧の発生、竜巻・ダウンバーストの発生など、様々な気象現象の過激化の原因となっている。その主たる原因はもちろん、地球温暖化であり、本来ならこれに対処したいところである。しかし、温室効果ガス排出ダントツトップのアメリカが、トランプ大統領の下、温暖化対策に背を向けていいる現状では、地球温暖化の進行を前提に善処する他はない。


 少なくとも「100年に1度の災害」への対策までしかできていない日本では、今後、増加が予想される大型災害には対処しきれない。これからは、防災より減災を各自で考えておくことが現実的な対応になるだろう。



文・才野茂(科学史)   2017.9.20