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TPPの行方【ティーピーピーのゆくえ】

★参加予定であったTPPは域内の格差を拡大し、社会を不安定化しただろう


 大統領選挙戦で、TPPを攻撃してきたトランプ大統領は、就任間もない2017年1月、公約通り、TPP離脱の大統領令に署名した。経済規模の割合の関係で、アメリカと日本の参加がTPP発効の必須条件となっていたが、これにより、TPP発効の可能性はほぼなくなった。


 そして、推進役であったアメリカがその役を放り出したことで、TPPは頓挫したかに見えたが、今度は安倍首相が、アメリカ抜きの11カ国でTPP11を目指すと言い始めた。さらに、それと中国の一帯一路をつなげようとまで言い出している。一帯一路との連携は、中国向けのリップサービスとも考えられるが、TPP11に関しては、閣僚会合の開催など、オーストラリアと共に積極的に動き始めている。


 元々TPPは、アメリカ抜きの、というか、弱者がアメリカに対抗するための水平的協力関係から始まっている。ところが、そこにアメリカが乗り込んできて、アメリカの巨大資本が、どの国の規制からも自由に荒稼ぎできる、ある種の治外法権的金儲けパラダイスのスキームに換骨奪胎してしまった。その意味では、日本が参加予定であったTPPは、イマ風に言えばTPP2.0といったところである。このバージョンのTPPは、結局のところ域内の格差を拡大するものでしかなく、長期的には全加盟国において低所得層の増加、貧困化を招き、社会を不安定化することになる。


 投票率に比べて過小になる一方、第1党ですら過半数に届かない事態も発生し、政権の正当性が問われ始めている。


 自由貿易による生産増加により得られる富は、国家の政策的規制が許されないという強制的な弱肉強食の環境の下で、アメリカ系の多国籍企業を中心とする経済的強者の下に吸い寄せられる。どこの国でも、国内では域内競争の原理で一般労働者の待遇を切り下げていくことになり、国民所得の総量が増える一方で、大多数の一般労働者は貧窮化することになる。


 アメリカは、TPPの推進国として国内でそのプロセスを先行させた結果として、貧困層の反乱を招いた。一方で、アメリカ抜きでのTPPの実現に、政府がいきなり積極的になった背景については、様々な観測がなされている。トランプ政権が押し付けてくる「アメリカにとってより有利な二国間協定」から逃げるためとも言うし、アメリカが後から参加しやすいように地ならしを進めておくためという観測もある。さらには、アメリカを見限って中国と組むことにしたという見方もあれば、格好が付かなくなって、面子と惰性で早期実現をぶち上げているだけと見る向きもある。ただ、経済規模=購買力で70%程度を占めていたアメリカが抜けたことで、参加国にとって市場参入のうまみが大きく減ったことも事実であり、いくら日豪が旗を振ったところで、求心力の回復は限られている。


 今後のTPPは、スキャンダルや弾劾でトランプ政権が早期に終われば、焼き直しバージョンのTPP2.1が復活してくる可能性もあれば、本来の弱者連合に戻る方向での1.1も考えられ、あるいは新たな3.0が出てくる可能性もある。たとえば、上述の誘いに乗って、中国が新たな中心国として入ってくることもありうる。対米連携として始まった1.0がアメリカに乗っ取られたわけだから、中国包囲網としての意味もあった2.0が、今度は中国に乗っ取られとしても不思議ではない。



文・鯉川鱗太郎(エコノミスト)   2017.9.15