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対談《鈴木邦男のオンラインで語ろう》

自分の仕事にどう命を懸けるか

ゲスト・望月衣塑子さん(東京新聞社会部記者)


小柄な人が入ってきたなと思ったら、望月さんだった。うーん、この体躯で、菅官房長官に10分以上一人で質問し続けたのか。 「でも声は大きいんで、おまえとは内緒話はできないと言われます」とご本人。 その後も彼女は、追及の手を休めることなく、聞きたいことは質問する態度を貫いている。鈴木さんにも、のっけから赤報隊関連で直球を投げ込んだ




赤報隊化する日本

望月  1月末に放送されたNHKスペシャル「未解決事件」File6〈赤報隊事件〉、見ました。番組の中で犯人から連絡があったと仰ってましたが、犯人をご存知なんですか?


鈴木  僕の所に電話してきたのは、実行犯だと思いますね。



望月  その根拠は何ですか?


鈴木  実は、“俺が犯人だ”とか“犯人を知っている”という類の電話は、よくかかってくるんです。ただ、そのうち1件だけは、口調とかが堂々としていて、卑屈なところがない。 そして、これは後から分かったことですが、そのときその男がしゃべった次の犯行予告が、ことごとく実際に起きたんです。



望月  でも警察は容疑者6000人の中から右翼9人を絞り込んで、そのトップが鈴木さんだと。


鈴木  右翼だったら名乗って手柄にしないと意味がない。だから、右翼じゃないと思いますよ。ただ、人を殺してるから、死刑の可能性もあるので、名乗らないのかもしれない。



望月  当時の右翼の方でも、それを覚悟で名乗るという人は、さすがにいないでしょうか。


鈴木  ええ。今は、ネトウヨの連中のデモでは「赤報隊万歳」とか言ってますが。



望月  ああ、言ってますね。「朝日新聞皆殺し」とか。


鈴木  ろくでもないやつですね。



望月  それはやっぱり安倍政権になったということが大きいですか?


鈴木  いや日本人全体の問題でしょう。憲法改正しろとか、反日とか、みんな赤報隊が言ってたこと。「赤報隊化する日本」だな(笑)。(編注=鈴木邦男さんの著書に『連合赤軍化する日本』がある)



望月  当時の空気感と今の空気感は似ている感じはしますか?


鈴木  反日だから「殺せ」って言ったのは赤報隊が最初ですよ。そこから、いろいろ生まれてきた。反日ということで、人間の全てを否定する。


編集部  流行語大賞だって、「審査員が反日だ」なんて言われたりします。



人権を尊重しろという改憲論議がない

望月  鈴木さん、「生長の家」にいらしたんですね。「生長の家」というと、稲田(朋美=元防衛大臣)さんの名前も出てくるんですが――


鈴木  僕は今でも「生長の家」は信じていますよ。



望月  稲田さんと原点は同じだけど、その後の道は違ってきた。


鈴木  安倍総理だって「生長の家」の谷口雅春を信じている。自民党の政治家でも、そういう人はいっぱいいるんですよ。 やっぱり統一教会なんかとは違うという安心感があったんです。だから日本会議でも受け入れられている。



望月  それが今、いいように利用されているというふうに考えますか。


鈴木  それもあるだろうし、また、彼ら自身もやっぱりそれをうまく使っているということになるでしょうね。



望月  今、小林よしのりさんとか鈴木さんの動きというのは、右の本流を歩いていた人が、気付くとリベラルと一緒になって動いているという……


鈴木  小林さんとは去年10月の総選挙で、新宿駅で立憲民主党が街頭演説をしたとき、2人で応援演説をしました。 あの人は、僕知り合ったころは、エイズ裁判に関わって、どちらかというと左翼系だったんですよ。それが一時期、僕を越えて右に行った。



望月  今の安倍政権の反作用でしょうか?


鈴木  時代が右派系になっているとき、さらに右を行くか、あるいはリベラルで対決するしかないんじゃないですかね。



望月  安倍政権の改憲案についてはどういうふうに見てるんですか。


鈴木  改憲反対です。



望月  9条もそのままで?


鈴木  ええ、そのほうがいいと思います。だって、危ないですよ。 僕らも学生時代は、憲法が諸悪の根源で、憲法さえ変えれば世の中はよくなるって主張してましたけど、政治運動はそういうものなんです。 問題を一つに絞る。でも、そうじゃないだろうな、とだんだん思ってきた。 それに憲法改正論議の中に、さらに人権問題を強調しようという人は誰もいないじゃないですか。 国家の力を強くしろ、北朝鮮許すな、核武装しろ、徴兵しろ、みたいな方向ばかり。人間そのものの自由とか平等がないがしろにされそうで危ないですよ。



これこそが新聞記者なんだ!

鈴木  望月さんの『新聞記者』(角川新書)を読んだら、イメージが変わりました。今までのいろんな新書の中でも最高の本でしたね。


望月  ありがとうございます。



鈴木  最初、『新聞記者』ってタイトルがいいかげんだなと思ってたんです。『なぜ質問し続けるのか』というふうな方がいいんじゃないかなと。でも、読んだら編集者の意図がわかりました。 「これが新聞記者像なんだ!」という挑発的な考えがあったんじゃないですか。それに新聞記者というだけじゃなくて、 どういうふうに自分の仕事に命を懸けるか、さらには自分の生き方、恋愛、子育て……いわば人間はどう生きるかというものを書いてるでしょう。 だからすごいなと。 『人間』というタイトルでも良かったですね。


望月  官邸の番記者さんたちも、オフレコでの囲みのとき菅さんに「彼女は活動家ですからしょうがありません」とか言ってたらしいんですけど、この本に「読売新聞に行きたかった」とか、ノンポリだったと書いてあるので、認識を改めてくれたかもしれません。



鈴木  会見場の雰囲気が変わったんですか?


望月  いや、そこまでは。それまでは菅さんの会見は、ホワイトハウスの国務省のやり方にならって、手が上がってる限り指し続けてたんですね。 それが私が手を挙げているのに、内閣官房の報道室長が「終わります」って会見を打ち切ってしまう事態も起きてます。 もう6代の官房長官会見を見続けてき他社の記者の方も、初めての経験だ、ショックだとおっしゃってました。 番記者の方たちにしてみると、望月が菅さんの気分を害してるけど、毎朝、朝駆けで不機嫌な彼を相手にしなきゃいけないのは自分たちだという気持ちもあるんだと思うんですね。 何か情報を取りたくても出てこなくなると。



鈴木  それで、会見に出るなとか、内閣記者クラブから除名だというような圧力はないんですか?


望月  政治部の領域に社会部の記者が土足で踏み込んでるという状況ですが、昨年、記者クラブの総意として質問の長さや時間について 「クラブの懸念」が示されたことがありましたが、何社かの記者さんが、いやあ、ああいう質問の仕方は、私たちはしないけど、 でもやっぱり質問自体に記者クラブが抑制をかけるのはよくないという結論だったようです。
うちの社も、望月がこのペースでやると除名だとかって騒がれるかもしれないけど、でも、質問し続けさせよう、やれるところまでやってみようと、 幹部がみんなで話し合ったと聞いています。その後はしかし「質問が長い」という苦情が続いたので、そこはいま極力短くなるように努力して聞いています。



鈴木  それは望月さん一人で全部変えたんだ。


望月  変えたというか、うちは逆に東京新聞だからゲリラ的なものをちょっと許してもらえているのかなとか思いますね。 菅さんの秘書官らから嫌みも言われるだろうし、迷惑をかけているのに政治部の懐の深さには感謝しています。



鈴木  菅さんとエレベーターでばったりとか、そういうことはないんですか?


望月  それはないですね。基本、官邸へ行って車移動ですよね、あの方は。



鈴木  菅さんから、この『新聞記者』を読んだよという話もないんですか?


望月  ありませんね。