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対談《鈴木邦男のオンラインで語ろう》

死刑囚を描いたマンガ作品に共感

ゲスト 松本麗華さん(心理カウンセラー)


オウム真理教の起こした事件で死刑判決を受けた13人のうち7人が、 東京拘置所から各地の拘置所へ移送された「分散処遇」のニュース(3月14日)の記憶も新しい、 そんな頃、かつてアーチャリーと呼ばれた松本麗華さんはメディアの求めに応じて、いくつかの番組で心境を語った。 直接的なそれらへの言及はそれぞれのメディアに任せることとし、 今回は麗華さんが「鈴木さんにぜひ読んでほしい」と指定した二つのマンガ作品をめぐっての対談をお届けする。




マンガならではの表現、死刑囚の心情

鈴木  こういう切り口で死刑の問題を扱ってるものがあるとは知らなかったですね。 マンガだからできる手法かもしれない。どうやったら死刑囚に人間らしい心を取り戻せるかという実験マンガだし、また今、死刑になる人の心情が残されてないでしょ。 それを試みてる。マンガはいろんなことを考えられてすごいなと。
『天井の弦』も、山本おさむは『はるかなる甲子園』とか読んでいたけど、これはすごいですね。 日韓の民族問題を、今の日本みたいに、単にぶつかり合うだけじゃなくて、またそれを政治家が利用して「だから我々は国を守らなければならない」とか言うだけじゃなくて、 違う民族の分かり合う手段として、音楽・バイオリンを媒介にして考える。いい補助線だなぁと。
マンガはビジュアルだし、頭に残る。その点、我々、ものを書くのは、頭に残らない。そういう悔しさを感じました。

山本おさむ著『天井の弦』(小学館ビッグコミック)
日本統治下の朝鮮南部・慶尚北道で生まれた陳昌鉉が世界的バイオリン製作者として成功するまでの実話をもとに描かれた長編マンガ。 日韓の歴史を横糸に、差別に苦しみながら独学でバイオリン製作に励む少年の成長を縦糸に紡がれる大河ドラマである。


松本  『天上の弦』は、林泰男さんにいただいたんです。 林さんはマスコミには、“殺人マシン”などと言われましたが、気立てのいい兄貴分みたいな人。人当たりはソフトで、世界中、バックパッカーみたいな旅をした人ですね。 出家前には、お母さんと一緒に世界中を旅したそうです。お母さんが嬉しそうにお話されていました。

*林泰男 元オウム真理教幹部。確定死刑囚。地下鉄サリン事件でただひとりサリンパックを3つもち、一番多くの犠牲者を出したため、マスコミに「殺人マシン」と言われた。



鈴木  いつ、このマンガをもらったの?


松本  10年以上前、大学生のころですね。そのころの私は、「日本」という国が、法律を守らないで、 私たちに対していろんな権利を侵害してきたにもかかわらず、国家に対しては「あるから安心」みたいな、固定化した思考をしてたんです。 その前に『キリング・フィールド』(カンボジア内戦をテーマとしたイギリス映画)を見て、少し変わりかけてはいたんですけど、 国というものに「絶対にゆるぎないもの」という感覚を持っていました。
 そんななか『天井の弦』を読むと、政権というか、権力が一日にして入れ替わることが描かれているわけですね 。朝鮮戦争では、最初中国・ソビエトに支援された北側が攻めてきて、北側についた方が得だとその権力にこびへつらった人たちが、同胞の南側の人を殺したりする。 ところが、国連、アメリカに支援された南側が盛り返すと、北に取り入っていた人たちが罪に問われて殺されていく。 そういうのを見た時、国家というのは一つの思想、価値観によって形作られるに過ぎないことが腑に落ちたんです。
 私の父や知り合いの死刑が確定する頃に、『天上の弦』を読んでいたんですが、国というものは、流動的で、確固としたものではないと感じるようになりました。 また、「国」というと、ドライでシステマチックなものというイメージがあったのですが、恣意的というか、人間の感情的な判断が入り込む余地があるんだということを感じました。 この頃、父の病気の治療を裁判所に求めていたのですが、裁判所は弁護人の立ち会いなく父と会い、父が話は理解しているし、 目が見えないという印象は受けなかったと、目も見えることにしてしまいました。公開の法廷ではない場所で、お医者さんでもないのにです。 裁判所はとにかく、父に訴訟能力があることにしたかった。当時はマスコミによる「詐病」のイメージのほうが強くて、6人もの精神科医の方が、拘禁反応にあり、 「訴訟能力なし」と判断したにもかかわらず、全く思慮されないという状況でした。この時に、国家とはそもそもそういうものなんだと思い至りました。
 義務教育の就学拒否など、国による人権侵害をこれだけの経験をしている私が気づかないんだから、一般の方からすると、 「国がやってることなんだから正しい」と信頼していて、疑問を差し挟んですらもらえないんだと、ある種、絶望を感じたこともあります。……涙が止まらなかったですね。



鈴木  お父さんの事件がないと、読まなかったマンガかな?


松本  そうですね、ちょっと難しいマンガなので。