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対談《鈴木邦男のオンラインで語ろう》

死刑囚を描いたマンガ作品に共感

ゲスト 松本麗華さん(心理カウンセラー)




『モリのアサガオ』に対する疑問

鈴木  死刑をテーマにしたマンガって、他にもあるんですか?


松本  いろいろありますけど、当事者の私からすると、当事者の心情を知らない人が描いた独善的なマンガが多いですね。 『モリのアサガオ』(死刑囚舎房の担当となった新人刑務官がさまざまな死刑囚に触れるうちに……郷田マモラ著)も途中までは当事者にも寄り添ってるんですが、途中から、わからなくなる――



鈴木  死刑賛成のマンガだから?


松本  死刑についてとてもいい問題提起のマンガだと言われているんですが、 死刑になるような罪ではないのに死刑を受け入れていくみたいな内容で、 「えっ? どうして死刑を受け入れるのがいさぎよいことなんだ?」と、意味がわからなかったです。 どうしてああいう結論になったのか、お話を聞いてみたいですね。


鈴木  子供たちが読んで、わかるのかな?


松本  う~ん、わかるんじゃないでしょうか。 『死刑囚042』は絵がかわいいから、軽い気持ちで買ったんですが、ちゃんと当事者の気持ちを想像して描いていて、素晴らしかったですね。



小手川ゆあ著『死刑囚042』(集英社ヤングジャンプコミックス) 死刑囚に人間的心を取り戻させるために、興奮して殺意を抱くと爆発するチップを頭に埋め込まれたうえで、高校へ管理人として送り込まれた主人公。 そこで出会った盲目の少女らとの交流を経て……という近未来マンガ。この社会実験を提案した法務省の研究者など、多彩な人物が繰り広げるヒューマンドラマ。結末は苦い。



ルールを守って裁いてほしい

鈴木  最近、あなたはよくテレビに出てるね。重いテーマだけど、あなたがしゃべると、状況が変わりますね。


松本  そう思われますか。思った事をうまく話せるといいんですが、難しくて。このマンガを読んでいただきたいと思ったのは、犯罪を行った人でも、 全て悪に染まった人だというわけではなくて、この主人公のように、やさしいところもあるし、それだけじゃなくて嫌なところもあるし、人間臭い人たちなんです、私が知っている人は。



鈴木  あなたはいっぱい知ってるけど、普通の人は生身の死刑囚に会うことはないから(笑)


松本  このマンガを通して、いろんな死刑確定者がいるんだなと思っていただければ。 リアリティがあるんです、このマンガは。感情を押し殺すところとか、結末にもリアリティがあって。 たぶん、マンガのような状況になったらああします、と当事者の私が思えるマンガなんです。すごいマンガ家ですよね、お目にかかってみたいです。
 寄り添ってきた人間が取り残されちゃうという、……やり場のない気持ちを持つということを、ちゃんと描いている。 ジャーナリストの堀潤さんが、ラジオで死刑の執行について「罪を犯した本人ではない家族の皆さんもともに心の処刑をされてしまうんじゃないか」って仰ってましたが、 「そうか、私がこんなに苦しいのはそういうことなのかも」って思いました。犯罪を行った人が執行されるのが死刑制度ですが、周りの人達の心もボロボロになっちゃう。 それはどうしてもリカバリーできない傷として残る。
 私の場合はその上、父と23年話もできていないんです。父は一審の早い段階から精神的におかしくなり、弁護人と意思疎通が図れなくなりました。 法廷にもオムツをつけてくるようになり、何も言わず、眠っているような状態でした。映画監督の森達也さんは判決の傍聴をしたそうですが、 一見して精神が崩壊していると思い、同じく傍聴していたマスコミの人も同じように受け止めていたと『A3』に書いていました。 本来だったら一旦裁判を止めて、治療して、その上で続行するのですが、父の場合はそれがなかった。それは実質的には違法です。控訴審では括弧付きの精神鑑定が行われ、訴訟能力があるとされました。括弧付きの精神鑑定と言っているのは、刑事訴訟法上必要な手続が踏まれていないんですね。 しかも、弁護人が控訴趣意書を提出すると約した期日の前日に、裁判所は控訴棄却しました。そういう異常な手続が続いて死刑が確定しました。弁護人が依頼した精神科医は、昏睡状態の一歩手前の昏迷状態にあると診断されていて、拘置所は治療をしていないと言っていますから、現在も昏迷状態にあるのはほぼ間違いなく、受刑能力がない状態です。
 私が本当に言いたかったのは、オウムの人達、一部の人たちですけれども、オウムの人達が事件を起こした。 それは法律に反しているし、許されないことだ、だから裁く。それはわかる。でも、ルールを犯したから裁くんだったら、どうかルールを守って裁いてほしい。 それを国家が「麻原だから」「オウムだから」ということで、ルールを守らずに裁くんだったら、私のこの気持ちはどうしたらいいんだろう。 たとえルールに則って裁かれて、死刑になるとしても、受け入れがたい苦しみがあるのに。 しかも、父が本当に指示したのかどうかもわからない、そういう状況で、現在の状況に置かれているということも……言葉にできないくらい辛いことです。 仮に死刑が執行されてしまったら、国家による計画的、かつ多くの人がかかわっている殺人ということになってしまう……



金曜の夜が来ると「ああ、今週も無事だったか」と

鈴木  『死刑囚042』を描いたマンガ家は、そういう体験があるのかな。


松本  全くなくて、想像で描いたらしいんです。すごいですよ。



鈴木  アメリカだったら、女子大生が死刑囚に会って取材できたりしますよね。


松本  そうですね。カメラが入ったらなぜ悪いんだろうと思うんです。あまりにも不透明。拘置所や刑務所がどうなっているのか、一般の人はわからない。 死刑の執行がどうやって行われるのかもわからない。今の制度だと、死刑の執行後に家族に連絡があるので、ゆっくり寝られるのは土日だけ。



鈴木  ああそうか、土日はないんだ。


松本  だから金曜日の夜が来ると、今週も終わった、とりあえず生きてたと。



鈴木  聞きにくい質問だけど、オウムの死刑確定者の分散処遇が始まって、死刑執行の準備じゃないかといううわさも飛んでますが。


松本  共犯者の裁判が終わったら、分散するのが普通だとも言われてますが、今の報道を見ると心配な状況ですね。まず父から執行されるという説もありますから。今回、分散処遇されたと知ったのは遅かったんですが――



鈴木  ああそうか、発表するわけじゃないんだ。


松本  そうですね、連絡もないので。知った時、何が起こったかわからなかったですね。一瞬、執行されちゃったんじゃないかという錯覚も起きて、背筋が凍りました。手が震えて、何もできない。体も冷えてきて。どうしようって、泣き崩れて……。 お世話になっている弁護士の先生に電話すると、取り乱してる私を、「あなたがしっかりしなくちゃダメでしょ!」って叱り飛ばしてくださって。 確かにそうだなぁと……こういう時こそ、普通に行動しなくちゃいけないと。